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千葉地方裁判所 昭和62年(ワ)779号 判決

原告 有限会社 共立商事

右代表者代表取締役 伊藤久子

右訴訟代理人弁護士 池内精一

被告 千葉県

右代表者知事 沼田武

右訴訟代理人弁護士 石川泰三

同 岡田暢雄

同 秋葉信幸

同 今西一男

同 三宅幹子

右指定代理人 道口厚

〈ほか三名〉

被告 本間昭二

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 岡部文彦

同 本木陸夫

同 海老根遼太郎

同 小平恭正

右四名訴訟復代理人弁護士 山田次郎

主文

原告の被告千葉県に対する請求並びに同被告を除くその余の被告らに対する主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告千葉県に対する請求及び同被告を除くその余の被告らに対する主位的請求について

(一) 被告らは、各自、原告に対し、三四八万円及びこれに対する被告吉田紀衛を除くその余の被告らにおいて昭和六二年六月二七日から、被告吉田紀衛において同年八月二三日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(三) 仮執行の宣言

2  被告千葉県を除くその余の被告らに対する予備的請求について

(一) 原告に対し、

(1) 被告本間昭二及び同吉田紀衛は、それぞれ、六六万円及びこれに対する被告本間昭二において昭和六二年六月二七日から、被告吉田紀衛において同年八月二三日から各支払済みまで年五分の割合による金員の、

(2) 被告吉野三郎は、六四万円及びこれに対する同年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の、

(3) 被告杉田郁夫は、六三万円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の

各支払をせよ。

(二) 訴訟費用は右被告らの負担とする。

(三) 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告千葉県

(一) 原告の被告千葉県に対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告千葉県を除くその余の被告ら

(一) 原告の右被告らに対する主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、千葉県館山市民を読者対象とした月刊紙・千葉共立新聞(以下「共立新聞」という。)を編集・発行する会社であり、被告千葉県(以下「被告県」という。)は、同県知事の所轄下にある同県公安委員会を通して同県警察を管理している公共団体であり、被告本間昭二(以下「被告本間」という。)は主として読売新聞を、被告吉野三郎(以下「被告吉野」という。)は主として毎日新聞を、被告杉田郁夫(以下「被告杉田」という〕)は主としてサンケイ新聞を、被告吉田紀衛(以下「吉田」という。)は主として朝日新聞をそれぞれ戸別販売する新聞販売店を営んでいるものである。

2  (一)原告は、

(1) 昭和五八年七月ごろ、被告本間との間で、共立新聞五〇〇〇部を代金三万円で毎月一日(一日が日曜日の場合には、翌日)に同被告の販売・配達する読売新聞に、

(2) 昭和五九年七月ごろ、被告吉野との間で、共立新聞三〇〇〇部を代金一万円で毎月一日(一日が日曜日の場合には、翌日)に同被告の販売・配達する毎日新聞に、

(3) 昭和五八年七月ごろ、被告吉田との間で、共立新聞五〇〇〇部を代金三万円で毎月一日(一日が日曜日の場合には、翌日)に同被告の販売・配達する毎日新聞にそれぞれ折り込み配達する旨の黙示の継続的請負契約を締結した。

(二) また、原告は、昭和五九年七月ごろ、被告杉田との間で、共立新聞二〇〇〇部を無償で毎月一日(一日が日曜日の場合には、翌日)に同被告の販売・配達するサンケイ新聞に折り込み配達する旨の黙示の準委任契約を締結した。

3  共同不法行為(被告県に対する請求及び同被告を除くその余の被告らに対する主位的請求の原因として)

(一)(1) 被告県の公権力の行使に当たる公務員である千葉県警察・館山警察署(以下「館山警察署」という。)署員は、昭和六二年五月二七日、同署において、被告本間、同吉野、同杉田、同吉田ないしその関係者に対し、原告はいわゆる暴力団員(幹部)が経営しており、共立新聞の広告掲載料は右暴力団の有力な資金源となっていると誤った事実を説明したか若しくは内容・方法が偏ぱな判断材料提供となる説明をし、又は、右被告らが折り込み配達を拒否するか否かの判断材料を求めていることを知り少なくとも知り得る状況にあった以上、右事実の正誤にかかわらず、その判断材料によって右被告らが折り込み配達を拒否する可能性があり、ひいてはそれが新聞発行者たる原告の営業を妨害し、かつ、言論・出版の自由に対する侵害を惹起しかねないおそれがあったのであるから、そのような結論を出すおそれのある材料を与えるべきでないにもかかわらず、右のような説明をした上、共立新聞の折り込み配達の継続の可否について賢明な判断を行うべきことを求め、表向きは右被告らの自主的な判断にゆだねた体裁を取りつつも、その実体は右被告らないしその関係者に対して暗に折り込み配達の拒否の結論を出すことを示唆誘導した。その結果、同日、右被告らをして、そのような心理的拘束下において、共立新聞の折り込み配達を拒否する旨の申合せをさせてそれを拒否させた。

(2) 被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田は、それぞれ、前記2のとおり従前から継続的にかつ定期的に原告発行の共立新聞をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込み配達をしていたにもかかわらず、共立新聞第四九号(昭和六二年六月一日発行・配達予定)の印刷準備中であった同年五月二八日ごろ、前記3の(一)の(1)のとおり館山警察署署員の示唆誘導に従い、何らの正当な理由もなく、協議の結果、右被告ら共同の意思として、右各折り込み配達を拒否することとし、それぞれ、原告に対し、その旨の通知をして、右各折り込み配達を拒否した。

(3) 以上のとおり、館山警察署署員並びに被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田は、客観的に原告の権利侵害を共同してしたものである。

(二) 原告は、被告らの右の共同の不法な行為によって次の損害を受けた。

(1) 五〇〇〇部の代替配達費 二三万円

(2) 慰謝料 三九五万円

(3) 弁護士費用 三〇万円

4  債務不履行(被告千葉県を除くその余の被告らに対する予備的請求の原因として)

(一) (1) 被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田は、それぞれ、原告との間で、前記2の(一)の(1)ないし(3)のとおり黙示に継続的請負契約を締結し、原告が昭和六二年六月一日に発行する共立新聞第四九号をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込み配達すべき債務があるにもかかわらず、原告が右共立新聞の印刷準備中であった同年五月二八日ごろ、それぞれ、原告に対し、右各折り込み配達を拒否する旨の通知をして、右各債務を履行しなかった。

(2) 被告杉田は、原告との間で、前記2の(二)のとおり黙示に継続的準委任契約を締結していたところ、次のとおり原告のために不利な時期である同月二八日、原告に対し、原告発行の共立新聞を同被告の販売・配達するサンケイ新聞に折り込み配達することを拒否する旨通知し、右準委任契約を解除する旨の意思表示をした。

ア 原告は、同月二五日には、共立新聞第四九号のすべての編集を終え、掲載広告を確定して原稿を印刷のために印刷所に送っていた。

イ 右新聞は、同年六月一日発行であり、代替配達(新聞で折り込み配達する以外の方法による配達)をする時間的余裕がなかった。

(二) 原告は、被告本間、同吉野及び同吉田並びに同杉田の各債務不履行によって次の損害を受けた。

(1) 右被告らの各契約配達部数で按分した五〇〇〇部の代替配達費

原告は、右被告らの各債務不履行により、共立新聞第四九号をやむを得ず五〇〇〇部のみ郵送により配達し、その費用として三〇万円を支出した。

右五〇〇〇部を右被告らとの各契約配達部数に応じて按分すると、被告本間及び同吉田は、各約一六六七部、被告吉野は一〇〇〇部、被告杉田は約六六七部となり、これらに応じて右の三〇万円を按分すると(一〇〇円未満切捨て)、被告本間及び同吉田は各一〇万円、被告吉野は六万円、被告杉田は四万円となるが、これから、被告本間、同吉野及び吉田にそれぞれ支払うべき前記2の(一)の(1)ないし(3)の各代金を控除すると、右の代替配達による直接の損害は、被告本間及び同吉田は各七万円、被告吉野は五万円、被告杉田は四万円となる。

(2) 右被告らに対する慰謝料 各五九万円

よって、原告は、

① 被告県に対する請求及び同被告を除くその余の被告らに対する主位的請求として、被告県に対しては国家賠償法一条、四条、民法七一九条に基づいて、被告県を除くその余の被告らに対しては民法七〇九条、七一九条に基づいて、各自、三四八万円及びこれに対する不法行為の後の日である被告吉田を除くその余の被告らにおいて昭和六二年六月二七日から、被告吉田において同年八月二三日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、

② 被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田に対する予備的請求として、各債務不履行に基づいて、

被告本間に対し、六六万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である同年六月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、

被告吉野に対し、六四万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である同日から支払済みまで右割合による遅延損害金の、

被告杉田に対し、六三万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である同日から支払済みまで右割合による遅延損害金の、

被告吉田に対し、六六万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である同年八月二三日から支払済みまで右割合による遅延損害金の

各支払を

それぞれ求める。

二  請求の原因に対する認否

1  被告県の認否

(一) 請求の原因1のうち、原告が共立新聞を編集・発行していること、被告県が原告の主張するような公共団体であること、被告県を除く被告らがそれぞれ新聞販売店を営んでいることは認めるが、その余の事実は知らない。

(二) 請求の原因2のうち、原告の編集発行している共立新聞が新聞販売店を通じ同県館山市(以下「館山市」という。)内の各家庭に一般日刊新聞中に折り込む方法によって配達されていたことは認めるが、その余の事実は争う。

(三)(1)ア 請求の原因3の(一)の(1)のうち、館山警察署署員が原告主張の日に同署において被告本間、同吉野、同杉田、同吉田ないしその関係者と会合を持ったことは認めるが、その余は否認ないし争う。原告の経営主体がいわゆる暴力団員であること及び原告の共立新聞の広告掲載料収入が広域暴力団稲川会系岸本組(以下「岸本組」という。)の資金源となっていることは、事実である。右被告らが、そのような共立新聞の折り込み配達を拒否する意思決定を行ったのは、右会合に先立つ昭和六二年五月二〇日の店主会の席上であり、右被告らないし関係者並びに同署署員の会合と右被告らの折り込み配達拒否の意思決定との間には何ら因果関係もない。そして、右被告らは、共立新聞の折り込み配達を拒んだ後に予想される営業に対する各種の妨害、自己及び従業員の生命、身体及び財産に対する危難を避けるため、右会合を求めたのである。このように、同署署員の行為は、市民である右被告らからの相談に応じ協力するという非権力的なものであるから、優越的な意思の発動たる「公権力の行使」に該当しない。

イ 同3の(一)の(2)のうち、右被告らの折り込み配達拒否が同署署員の示唆誘導に従ったものであることは否認し、その余の事実は知らない。

ウ 同3の(一)の(3)の事実は否認する。

(2) 請求の原因3の(二)は争う。

2  被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田の認否

(一) 請求の原因1のうち、原告が共立新聞を発行していること、被告県が原告の主張するような公共団体であること、被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田がそれぞれ原告の主張する新聞販売店を営んでいるものであることは認めるが、その余の事実は知らない。

(二) 請求の原告2のうち、原告が昭和五八年七月ごろに被告本間及び同吉田との間でそれぞれ共立新聞第二号各五〇〇〇部をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込んで配達する契約を締結し、その二年後ごろに被告吉野及び同杉田との間でそれぞれ共立新聞各二〇〇〇部をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込んで配達する契約を締結したこと、原告が毎月一日の共立新聞発行日の前日までに右被告らの経営する各新聞販売店に右各部数を持ち込んでいたこと、原告と被告本間及び同吉田との間で約四年間、被告吉野及び同杉田との間で約二年間そのような持ち込みが続いたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)(1)ア 請求の原因3の(一)の(1)のうち、館山警察署署員が原告主張の日に同署において被告本間、同吉野、同杉田、同吉田ないしその関係者と共立新聞の問題で話し合ったこと、同署署員がその際右被告らないしその関係者に対して共立新聞が結局において暴力団の資金源となっていると推認されるので賢明な判断をして欲しいとの説明をしたこと、右被告らがそれぞれ共立新聞の折り込み配達を拒否したことは認めるが、右被告らが警察当局に示唆誘導されて心理的拘束下に右各配達の拒否をしたことは否認し、その余は争う。右被告らが協議の上右各配達の中止を決めたのは、昭和六二年五月二〇日である。

イ 同3の(一)の(2)のうち、右被告らがそれぞれ従前から継続的にかつ定期的に原告発行の共立新聞をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込み配達をしていたこと、右被告らが協議の上同年六月一日発行の共立新聞第四九号の各折り込み配達の中止を決め、原告に対しそれぞれその旨の通知をして右各折り込み配達をしなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

ウ 同3の(一)の(3)の事実は否認する。

(2) 請求の原因3の(二)のうち、損害の発生の事実は知らない。その余は争う。

(四)(1)ア 請求の原因4の(一)の(1)うち、被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田がそれぞれ原告に対してそれぞれの販売・配達する日刊紙に原告主張の日に発行する共立新聞第四九号を折り込んで配達することを拒否する旨の通知をしたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

イ 同4の(一)の(2)のうち、被告杉田が原告に対して被告杉田の販売・配達するサンケイ新聞に右共立新聞を折り込んで配達することを拒否する旨の通知をしたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(2) 請求の原因4の(二)の損害の発生の事実は知らない。その余は争う。

三  抗弁

1  被告県

岸本組は、館山市に本拠を置き、組長以下多数の組員が同市内においてしばしば他の暴力団との対立抗争事件を繰り広げ、多数の検挙者を出したばかりでなく、遠く北海道においても対立抗争事件を起こすなど極めて過激な組織である。そして、原告の発行する共立新聞の広告掲載料の取立て等は、一見して暴力団員と判断される岸本組の組員が行っており、共立新聞の広告掲載料収入が暴力団の資金源になっていること及び原告の実質的経営主体が暴力団であることは周知の事実であって、暴力追放運動のための各種会合において警察官がそのような事実に触れたとしても、それは市民の生命・財産の保護という公共の利益のために必要な範囲の正当な職務行為である。

2  被告県を除く被告ら

(一) 請求の原因3に対して

(1) 共立新聞は、岸本組の幹部である伊藤秀彦が取締役、同人の妻である伊藤久子が代表取締役となっている原告が発行する新聞である。

共立新聞に掲載する広告は、岸本組の組員が取りに行き、広告掲載料の回収もその組員が行っている。そして、その広告をめぐってトラブルを起こしているため、共立新聞の背後には岸本組がいるということは、館山市民にとっては常識であり、岸本新聞と呼ばれることすらあった。

(2) このような原告の発行する共立新聞の広告掲載料収入は、当然に暴力団の資金源になっているものと推認される。

(3) 被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田が取り扱っている読売、毎日、サンケイ及び朝日の大新聞並びに地元の各紙は、昭和六二年五月ごろには連日のように「暴力団追放」のキャンペーン記事を掲載しており、かつ、原告と関係のある岸本組の者も、恐喝や傷害事件を引き起こして、次々に警察に逮捕されていた。そのため、同市内では官民挙げて暴力団追放の決議がなされたりして、暴力団追放の気運は異常なまでに盛り上がっていた。

(4) このような中で、右被告らが新聞販売店としての使命感及び自己の事業の経営と信用を維持するために、暴力団の資金源となる共立新聞の配達を拒否するに至ったとしても、それは右被告らの正当な業務である。

(二) 請求の原因4に対して

(1) 新聞販売店主である右被告らにとっては、その取り扱い商品が暴力団追放という正しい世論形成を目的とする新聞であり、右被告らのそれぞれと各新聞社との間の契約書には、新聞社の方針に反するチラシを配布してはならないという規約が存在している。

右被告らが取り扱っている新聞が連日のように暴力団追放のキャンペーン記事を掲載していたことは前記のとおりである。

(2) 前記のとおり、共立新聞は、別称岸本新聞と呼ばれるほど岸本組との関係が深いため、右被告らは、その配達を拒否したのである。拒否するについては、被告吉野以外の右被告らは、それぞれ新聞社の指示を受けている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、原告のもと役員が暴力団組織である岸本組の幹部であり、同人の配下と目すべきものが共立新聞の広告業務に関与したことがあること、共立新聞が岸本組の新聞であるとの風聞が館山市民の中に広まっていることを前提とし、その限りにおいて、原告が組織とのかかわりを云々されることを争うものではない。しかし、共立新聞の広告が岸本組の資金源になっていることは否認し、その余は争う。

2(一)(1) 抗弁2の(一)の(1)のうち、原告の代表者の配偶者でそのもと役員が暴力団組織である岸本組の幹部であり、同人の配下と目すべきものが共立新聞の広告業務に関与したことがあること、共立新聞が岸本組の新聞であるとの風聞が館山市民の中に広まっていることを前提とし、その限りにおいて、原告が組織とのかかわりを云々されることを争うものではない。しかし、共立新聞の広告をめぐってトラブルが起こっていたことは否認する。

(2) 同2の(一)の(2)の事実は否認する。

(3) 同2の(一)の(3)のうち、被告千葉県を除くその余の被告らの主張するような新聞報道がなされたことは認めるが、その余の事実は争う。

(4) 同2の(一)の(4)は争う。

(二)(1) 抗弁2の(二)の(1)のうち、右被告らの主張するような新聞報道がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。各新聞社と新聞販売店間のチラシ配布規制の取決めは、チラシの内容自体が問題とされるもので、右被告らが新聞社の指示・意向というものは、新聞社の支局員や通信員の個人的意向・見解と理解される。

(2) 同2の(二)の(2)は争う。岸本組が右被告らの主張するような組織であり、岸本組本体が共立新聞を発行していたとしても、そのことは、右被告らの共立新聞配達拒否の正当性を裏付ける事由になるものではない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が共立新聞を発行していること、被告県が千葉県知事の所轄下にある同県公安委員会を通して同県警察を管理している公共団体であること、被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田がそれぞれ新聞販売店を営んでいるものであることについては当事者間に争いがなく、原告が共立新聞を編集していることについては、原告と被告県との間においては争いがなく、被告県を除くその余の被告らとの間においては《証拠省略》によりこれを認めることができ、被告本間の経営する新聞販売店の取り扱う新聞が主として読売新聞であり、被告吉野のそれが主として毎日新聞であり、被告杉田のそれが主としてサンケイ新聞であり、被告吉田のそれが主として朝日新聞であることについては原告と右被告らとの間においては争いがなく、被告県との間においては《証拠省略》によりこれを認めることができ、共立新聞が主として館山市民を読者対象とした月刊紙であることについては、《証拠省略》によりこれを認めることができる(ただし、共立新聞が同市内の各家庭に配達されていたことについては、原告と被告県との間においては争いがない。)。

二  原告は、被告吉野との継続的請負契約を締結した日が昭和五九年七月ごろであり、被告杉田との継続的準委任契約を締結した日がそのころである旨主張するが、右主張に沿う《証拠省略》はにわかに信用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。また、原告は、被告吉野との継続的請負契約における共立新聞の折り込み配達部数が三〇〇〇部である旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

ところで、原告の編集発行している共立新聞が新聞販売店を通じ館山市内の各家庭に一般日刊新聞中に折り込む方法によって配達されていたことについては、原告と被告県との間においては争いがない。そして、原告が昭和五八年七月ごろに被告本間及び同吉田との間でそれぞれ共立新聞第二号各五〇〇〇部をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込んで配達する契約を締結し、その二年後ごろに被告吉野及び同杉田との間でそれぞれ共立新聞各二〇〇〇部をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込んで配達する契約を締結したこと、原告が毎月一日の共立新聞発行日の前日までに右被告らの経営する各新聞販売店に右各部数を持ち込んでいたこと、原告と被告本間及び同吉田との間で約四年間、被告吉野及び同杉田との間で約二年間そのような持ち込みが続いたことについては、原告と右被告らとの間においては争いがなく、被告県との間においては、《証拠省略》によりこれを認めることができ(る。)《証拠判断省略》また、原告と被告本間及び同吉田がそれぞれ当初から右各折り込み配達の代金を一回当たり三万円と取り決めたこと、被告吉野が原告に頼まれて当初の一年余りは右折り込み配達を無償でしていたが、昭和六一年一一月ごろに原告と話し合って右折り込み配達の代金を一回当たり一万円と取り決めたこと、被告杉田が原告に頼まれて右折り込み配達を無償でしていたこと、右被告らが原告から昭和六二年六月一日発行の共立新聞第四九号を右被告らの販売・配達する各日刊紙に折り込んで配達してもらうために右被告らの経営する各新聞販売店に持ち込まれるであろうことを予想していたことについては、《証拠省略》によりこれを認めることができ(る。)《証拠判断省略》

以上の事実によれば、原告は、(1)昭和五八年七月ごろ、被告本間との間で、共立新聞五〇〇〇部を代金三万円で毎月一日に同被告の販売・配達する読売新聞に、(2)昭和六一年一一月ごろ、被告吉野との間で、共立新聞二〇〇〇部を代金一万円で毎月一日に同被告の販売・配達する毎日新聞に、(3)昭和五八年七月ごろ、被告吉田との間で、共立新聞五〇〇〇部を代金三万円で毎月一日に同被告の販売・配達する朝日新聞にそれぞれ折り込み配達する旨の各黙示の継続的請負契約(基本契約)を締結し、右被告らとの間で、それぞれ、原告が毎月共立新聞を持ち込む毎に、右各継続的請負契約に定められた約定に基づいてその共立新聞をそれぞれの販売・配達する右新聞に折り込んで配達する旨の請負契約(個別契約)を締結していたこと、原告は、(4)昭和六〇年七月ごろ、被告杉田との間で、共立新聞二〇〇〇部を無償で毎月一日に同被告の販売・配達するサンケイ新聞に折り込み配達する旨の黙示の継続的準委任契約(基本契約)を締結し、同被告との間で、原告が毎月共立新聞を持ち込む毎に右継続的準委任契約に定められた約定に基づいてその共立新聞を同被告の販売・配達するサンケイ新聞に折り込んで配達する旨の準委任契約(個別契約)を締結していたことを推認することができ(る。)《証拠判断省略》

三1  原告は、公権力の行使に当たる公務員である館山警察署署員が昭和六二年五月二七日に同署において被告本間、同吉野、同杉田、同吉田ないしその関係者に対して故意又は過失により折り込み配達の拒否の結論を出すことを示唆誘導し、その結果同日右被告らをしてそのような心理的拘束下において共立新聞の折り込み配達を拒否する旨の申合せをさせてそれを拒否させた旨主張する。そして、(A)同署署員が同日同署において右被告らないしその関係者と会合を持ったことについては当事者間に争いがなく、同署署員がその際右被告らないしその関係者と共立新聞の問題で話し合い、右被告らないしその関係者に対して共立新聞が結局において暴力団の資金源となっていると推認されるので賢明な判断をして欲しいとの説明をしたこと、右被告らが共立新聞の折り込み配達を拒否したことについては原告と右被告らとの間においては争いがなく、被告県との間においては《証拠省略》によりこれを認めることができ、さらに、右会合が持たれた同署会議室内には暴力団資金源封圧会議の掲示が掛けられていたことについては、《証拠省略》によりこれを認めることができる。しかしながら、他方において、(B)原告の代表者の配偶者でそのもと役員が暴力団組織である岸本組の幹部であり、同人の配下と目すべきものが共立新聞の広告業務に関与したことがあること、共立新聞が岸本組の新聞であるとの風聞が館山市民の中に広まっていることを前提とし、その限りにおいて、原告が組織とのかかわりを云々されること、読売、毎日、サンケイ及び朝日の大新聞並びに地元の各紙が昭和六二年五月ごろには連日のように「暴力団追放」のキャンペーン記事を掲載していたことについては原告と被告県を除くその余の被告らとの間においては争いがなく、被告県との間においては、次掲の各証拠によりこれを認めることができ、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる(《証拠判断省略》)。

①  岸本組は、昭和四六年ごろ、全国的な広域暴力団稲川会の支援の下に館山市に進出し、当初は同市内を中心に対立する暴力団との小競り合いに終始していたが、昭和四八年ごろからは対立暴力団と銃器刀剣等による殺傷事件等を繰り返すようになり、同市を本拠として北海道北見市や東京都台東区浅草等にも勢力を伸ばすに至って、昭和六〇年ごろからはその地元の暴力団ともしばしば殺傷事件等を引き起こして、血を血で洗う抗争を反復していた武闘派といわれる広域暴力団である。

②  同署は、千葉県警察本部の担当部署と共同で、犯罪を行った岸本組組員を次々に逮捕して来たが、岸本組の集団的な犯罪行為が激化するに及んで、岸本組自体の活動を阻止するために、昭和六一年ごろからは、岸本組の資金源を封圧する作戦を進めるようになった。

③  かねてから岸本組に多額の用心棒代等を取られてした館山市内の遊戯場組合や料理飲食店組合等は、警察の右のような動きに応じて、昭和六二年五月に入ると、続々と岸本組との絶緑を表明し、同市や同市商工会議所等も会合を開いて、地域ぐるみで暴力追放の推進を盛り込んだ、安心して暮せる住み良い環境作りを目指すクリーン・アンド・ビューティフル運動を展開することを決議した。

④  被告吉田は、共立新聞の折り込み配達を続けているうちに、街の噂で共立新聞を発行している原告が岸本組の経営する会社であることが分かり、また、被告吉田の許に数人の朝日新聞の講読者と思われる人から電話でいつまで共立新聞の折り込み配達をしているんだ、いい加減にやめたらどうかといった苦情が寄せられたりしたため、何かの切っ掛けがあれば右折り込み配達を断わりたいと思っていたが、断わった場合には岸本組から報復されることを恐れて心ならずも右折り込み配達を続けていた。

⑤  そのような状況にあった被告吉田は、同月一三日、朝日新聞千葉支局から、電話で、右折り込み配達は暴力追放のキャンペーンをしている社の方針に反するので止めるようにとの指示をうけた。同市内で新聞販売店を経営している被告吉田、同本間、同吉野及び同杉田は、店主会なる会を作り、不定期に年一〇回程度集まって新聞の販売等について協議や情報交換をしていたが、被告吉田は、右指示を店主会で相談することとし、同月二〇日に店主会を開くことを被告本間、同吉野及び同杉田に連絡した。

⑥  同日の店主会には、被告吉田、同本間、同杉田及び同吉野の妻・吉野里之が出席し、被告吉田が右指示の話をしたところ、かねがね共立新聞に岸本組が関係しており、共立新聞の広告のことでトラブルが起こっていることを耳にしたりして、共立新聞の折り込み配達が暴力団の片棒を担ぐようで好ましくないので機会があればそれを断わりたいと思っていた被告本間、同杉田及び吉野里之もそれぞれ右折り込み配達を断わることになった。そして、断った場合における岸本組からの報復を防ぐために、警察から言われて断った形を取ることにしようということになり、被告吉田が知り合いの朝日新聞記者を通して同署署員と会合を持つ段取りを付けることになった。

⑦  ところが、被告杉田は、同月二五日、千葉サンケイ新聞社社長木村某から、電話で、今県を挙げて暴力追放キャンペーンをやっており、その先導を執っている新聞の販売店が暴力団絡みのものを扱ってもらっては困る、即刻共立新聞の折り込み配達を止め、その旨を原告に通知するようにと言われた。そこで、被告杉田は、直ちに、電話で、共立新聞の編集・発行の責任者である白井潤一に対し、今後の折り込み配達を断わる旨を話した。

⑧  被告杉田、吉野里之、被告吉田の妻、被告本間の妻及び同市船形で毎日新聞の販売店を経営している佐藤某は、同月二七日、同署会議室において、同署長佐藤義雄ら同署幹部と会合を持った。右被告杉田ら新聞販売店側の出席者はその際同署署員に対して警察が新聞販売店側に対して折り込み配達を中止するように要請をして欲しい旨申し入れたが、同署員は、そのような要請はできないが、何かあったら協力するから安心してもらいたいと言うにとどまった。

右の(B)の事実を併せ考えると、(A)の事実から同署署員が被告本間、同吉野、同杉田及び同吉田を心理的拘束下において共立新聞の折り込み配達拒否の結論を出すように示唆誘導したとの原告の右主張事実を推認することはできないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はないから、(A)の同署署員の言動と右被告らの右折り込み配達拒否との間には何らの因果関係もないといわなければならない。

2  したがって、原告の被告県に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

四1  被告本間、同吉野及び同吉田がそれぞれ原告とその編集・発行する共立新聞をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込んで配達をする旨の継続的請負契約を締結し、被告杉田が原告と共立新聞を同被告の販売・配達するサンケイ新聞に折り込んで配達する旨の継続的準委任契約を締結していながら、右被告らがそれぞれ一方的に原告に対して右各折り込み配達を拒絶したことは前に判示したとおりである。

2(一)  しかしながら、仮に右被告らの行為によって原告が何がしかの損害を被り、それが外形上不法行為に当たるとしても、前項の1の(B)に判示した事実及び次に判示する事実によれば、右被告らの行為は社会的に相当な行為としてその違法性を阻却するというべきである。すなわち、被告吉野が原告に頼まれて当初の一年ほどは右折り込み配達を無償でしていたが、昭和六一年一一月ごろに原告と話し合って右折り込み配達の代金を一回当たり一万円と取り決めたこと、被告杉田が原告に頼まれて右折り込み配達を無償でしていたことは、先に判示したとおりであり、《証拠省略》を総合すると、被告吉野は、昭和六〇年夏ごろ、原告代表者伊藤久子の夫で当時原告の取締役をしており、岸本組の幹部でもある伊藤秀彦及び岸本組の組員らしい男から、「朝日新聞と読売新聞は、無料で共立新聞の折り込み配達をしてくれているので、お宅も無料でしてくれ」と虚偽の事実を告げられて、それを承諾したが、昭和六一年一一月ごろになって、被告吉田のところでは有料で右折り込み配達をしていることが分かり、原告と交渉して有料にしたが、一般の折り込み配達料に比べれば低料金で引き受けることを余儀なくされたこと、被告杉田は、昭和六〇年夏ごろ、伊藤秀彦及び白井潤一から、「他の新聞販売店は無料で共立新聞の折り込み配達をしてくれているので、お宅も協力してくれ」と虚偽の事実を告げられ、それを断ったところ、伊藤秀彦がさりげなく小指の先端が欠損している左手を見せたので、同人が暴力団関係者かも知れないことに恐れを抱き、無料で共立新聞の折り込み配達を承諾せざるを得なかったこと、原告の事務所には、常時、暴力団員風の者が出入りしていること、館山市民の中には共立新聞の背後には岸本組がいることからそれを岸本新聞と呼ぶ者もいたこと、被告本間は、昭和六二年五月二八日付けの読売新聞が暴力団追放のキャンペーン記事を掲載したため同新聞千葉支局に電話をしたところ、共立新聞の折り込み配達を即座に断わるように指示を受けたので、同日、電話で、白井潤一に対し、その旨の通知をしたこと、被告吉田も、同日、電話で、白井潤一に対し、同様の通知をしたこと、吉野里之は、そのころ、白井潤一から、お宅もうちの新聞の折り込み配達を断わるのかとの問い合わせがあったので、そうしたいと返事をしたことを認めることができ(る。)《証拠判断省略》右の事実及び前項の1の(B)に判示した事実によれば、社会の公器ともいうべき新聞の販売店を経営する右被告らがその職業的倫理感からそれぞれの販売・配達する日刊紙に多くの同市民のひんしゅくを買っている暴力団岸本組の影響下にあり、その広告掲載料の収入が同組の資金源になっている疑いを払拭し切れない原告の編集・発行する共立新聞を折り込んで配達することを拒否したことは、社会的に相当な行為として右被告らの不法行為の違法性を阻却するといわなければならない。

(二)  《証拠省略》によれば、共立新聞の紙面自体はいわゆるタウン紙として相応のものであり、同組の影響を窺わせる記事等を見出すことができないことを認めることができるが、右被告らの行為は共立新聞の編集・発行いうなれば言論・出版の自由そのものを妨害するものではなく、他に有効な代替の手段のある頒布の方法を、それも時間的に代替の手段を取り得る時点において拒んだものに過ぎないから、右の(一)に判示した事実(前項の1の(B)に判示した事実を含む。)関係の下では、共立新聞の記事内容がタウン紙として相応なものであることは、右被告らの行為の社会的相当行為性を障害するものとは言えない道理である。

3  そうすると、原告の右被告らに対する主位的請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

五1  被告本間、同吉野及び同吉田がそれぞれ原告とその編集・発行する共立新聞をそれぞれの販売・配達する日刊紙に折り込んで配達をする旨の継続的請負契約を締結し、被告杉田が原告と右共立新聞を同被告の販売・配達するサンケイ新聞に折り込んで配達する旨の継続的準委任契約を締結しておきながら、右被告らがそれぞれ一方的に原告に対して右各折り込み配達を拒絶する通知をしたことは、前に判示したとおりである。そして、被告本間、同吉野及び同吉田の原告に対する右各折り込み配達の拒否の通知は、それぞれ原告との各継続的請負契約の解約の意思表示及びその到達に当たり、被告杉田の原告に対する右折り込み配達の拒否の通知は、原告との継続的準委任契約の解約の意思表示及びその到達に当たるとみるべきである。

2  しかしながら、第三項の1の(B)及び前項の2の(一)に判示した事実によれば、右被告らの各解約には正当の理由があるというべきである。

3  そうであるならば、原告の右被告らに対する予備的請求も、その余の点を判断するまでもなく、失当といわなければならない。

六  よって、原告の被告県に対する請求並びに被告県を除くその余の被告らに対する主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 並木茂 裁判官 春日通良 裁判官本間健裕は、転補のため署名・押印できない。裁判長裁判官 並木茂)

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